今年4月の大阪市議会議員選挙で、違法に運動員(ウグイス嬢)の手配を依頼した罪に問われている裁判が始まり、現職議員の不破忠幸被告は認否を留保しました。
違反行為に至った経緯など、調べてみました。
事件の詳細
今年4月の大阪市議選で選挙カー運動員の手配を依頼し、不正に報酬を支払ったとして大阪維新の会の市議、不破忠幸被告(53)ら3人が公職選挙法違反容疑で逮捕されました。
起訴状によると、不破被告は男性を介して女性に運動員の手配を依頼。
4月2日、男性の口座に現金75万6千円を振込、うち72万円を女性に報酬として支払ったとされています。
通常、選挙カー運動員への報酬は1日1万5千円を上限に認められていますが、不破容疑者は2万円を支払って運動員の手配を頼んだ疑いがありました。
さらに5月19日には、不破被告陣営が選挙管理委員会に届け出た以外にも運動員を活動させていた疑いがあることがわかりました。
不破被告は市議選で大阪維新の会から立候補し当選しましたが、逮捕後に離党しました。
裁判の結果
4日、大阪地方裁判所で初公判が開かれ、不破議員は起訴された内容を認めるかどうかについて「留保させていただきたい」とし、認否を明らかにしませんでした。
検察は「被告は優秀なうぐいす嬢を確保しようと、法律の上限よりも5000円高い1日2万円の報酬を振り込んだ。違法な買収だとわかっていたが再選のためにやむをえないと考えた」と指摘しました。
不破忠幸被告・プロフィール
名前:不破忠幸
生年月日:1965年10月10日
年齢:53歳
職業:大阪市議会議員
大阪府立成城工業高等学校(現・成城高校)出身。
卒業後は近鉄日本鉄道株式会社に勤務。
2015年4月の統一地方選・大阪市議選で初当選。
2019年4月の大阪市議選で中央区選挙区で出馬し、5人中3位で当選。
現在2期目となっています。
同時に逮捕された2人は?
不破被告から報酬として現金を受け取ったとして、公職選挙法違反容疑で逮捕された、選挙コンサルタント会社経営の山田浩史容疑者(58)と、貸倉庫会社代表の吉川美智子容疑者(64)について、検察は公職選挙法違反(買収)の罪で大阪簡易裁判所に略式起訴しました。
不破被告が山田浩史容疑者を通じ、吉川美智子容疑者に選挙カー運動員の手配を依頼していました。
違反した原因は?
不破被告は平成27年の市議選中央区選挙区で、維新から立候補し初当選しました。
当時の中央区選挙区は定数2で、不破被告はトップ当選。
しかし今回の選挙から中央区の定数は3に増え、維新は現職の不破被告に加え、新人の女性候補を擁立しました。
結果、この女性候補がトップ当選し、不破被告は再選を果たしましたが5人中3番目の得票でした。
維新関係者は「新人の勢いを感じ、自分の票を伸ばしたいという思いがあったのかもしれない」と不破被告の心中を推察していました。
専門家・他議員のコメント
今回の事件で浮き彫りになったのは、選挙戦を支える選挙カー運動員が各陣営間で奪い合いになっているという人手不足の事実です。
統一選のように複数の選挙が重なれば、人手不足はより深刻になり、専門家からは「実態に合わせた制度にすべきだ」との意見も出ています。
「雇いたくてもお金がかかると聞いて、あきらめざるを得なかった」と、不破被告と同じ大阪市議選に立候補した市議は、運動員の確保ができなかったといいます。
よって、知人らに手伝ってもらっていたということです。
各候補者にとって、多数の有権者に訴えることができる選挙カー運動員は重要な存在で、公職選挙法では、専門的な技術を持つ運動員への報酬は1日1万5千円を上限に認められています。
しかし優秀な選挙カー運動員は一握りといいます。
別の議員は「テープを流すだけでは迷惑に感じる有権者もいる。状況に応じてこまやかな配慮ができる『プロ』は、高額を支払ってでも確保したいと思うのは自然なことだ」と話しています。
また、日本大の岩井奉信教授は、現行の選挙制度に対し「運動員を奪い合う統一選の構図の中で、法定どおりの日当で人材が集まるのか」と、疑問を呈しています。
選挙カー運動員の日当などが定められたのは、公選法が改正された昭和53年。
この間、運動員に不正な報酬を支払ったなどとして摘発された選挙違反事件は数えきれないといいます。
夏の参院選にあわせて衆院選も行う衆参同日選となれば、運動員の争奪戦が再び起こる可能性もあるとのこと。
岩井教授は「優秀な人材を得るためには多額の報酬を支払わざるを得ない現状があり、制度が形骸化している」と指摘します。
さらに「国は実態を調べて適正化を図っていく必要がある」と話していました。
業界内での人材不足
吉川容疑者への報酬が18万円と高額で、不破被告が、選挙カー運動員の確保に危機感を募らせていた様子がうかがえます。
多くの選挙が重なる統一選で市議選が行われたことも運動員確保を難しくした一因といえるでしょう。
東京都内のある人材派遣会社は、区議選など都内の選挙を中心に計6陣営に約20人の選挙カー運動員を派遣したといいます。
告示1カ月前から問い合わせが殺到し、告示直前になっても運動員を確保できない陣営からは、人材を渇望する電話があったということです。
終わりに
不破被告の心中を察するに、優秀な人材を早く確保するためにはお金を積むしかない、人がいなければ選挙は戦えないのだから。といったところでしょうか。
しかし違反は違反です。もし現状を変えたければ、当人達が立ち上がり、国に訴え、今の公職選挙法を変えることだって出来るかもしれません。
なんといっても国を支えようとしている人たちですからね。